相談役 小出孝之

のり平アニメのすべてを見てきた小出孝之だけが知っている!?

アカペラで歌うのり平さん

駅長篇('64)―江戸むらさき特級

「のり平アニメCM」は、絵コンテを見ながら、のり平さんが声を吹き込み、それからアニメを制作するという手順ですが、「のり平アニメCM」には、歌う場面もよくあります。絵コンテにセリフが書いてあり、歌う場面では、セリフとともに都々逸風に、山本リンダ風に、ピンクレディ風にと書き添えてあります。原曲どおりに歌うと、著作権の関係もありますので、そこはのり平さんのこと、それらしいけれど、同じではない。パロディとしてその場で曲をつくり、アカペラで歌ってくれました。その歌に、後から、演奏をつけていきます。スタジオのミュージシャンたちは、のり平さんの、わざと調子をはずした歌にちゃんと、それらしい音楽をつけてくれるのです。出来上がったCMを聞くと、まるでいっしょに録音したように、ぴったりと合っています。のり平さんは、調子っぱずれも、玄人はだしの歌い方もできる人でしたね。

のり平さんの音感のよさを現しているのは、歌だけではありません。「江戸むらさき特級」の特級を、電車の特急にかけて、電車の警笛のように「とっきゅ~」というあのフレーズ。長く耳に残り、「江戸むらさき特級」の商品名をいちはやく皆様に覚えてもらえたのも、のり平さんの音に対する鋭敏な感覚があったからだと思います。

「ごはんですよ!」という商品名の名付け親は私です。我が家では、食事ができたと知らせる呼びかけは、「ごはんですよ!」でした。そこから得た発想です。この「ごはんですよ!」のCMで、のり平さんは、「ごはん」の「ご」にアクセントをつけず、「桃屋」と同じイントネーションで語ります。CMの最後の「ごはんですよ!は、桃屋ですよ」は、一度聞いたら忘れられない言い回しです。まさに三木のり平さんの天賦の才能ですね。

※本インタビューは、2004年3月16日に収録したものです。