演出・企画 飯田茂

のり平さんの引き出し

演出・企画 飯田茂

三木のり平さんは、博学でいろいろな知識をお持ちでした。

「こういう話はね、ちゃんとココの引き出しに入れとかなきゃだめなんだよ」

のり平さんは頭を指しておっしゃっていました。ただし、その引き出しの中には、やたらと回数を多く開ける引き出しがありました。僕でさえ3回、小林さんはたぶん50回ぐらい聞いたらしいものをご紹介します。

「君たちさ、サラリーマンはいいよね。何にもしなくても、いや、もちろん仕事はちゃんとしてるだろうけどさ、毎月毎月給料が振り込まれてくるんだろ。うらやましいよ。サラリーマンのサラリーって何のことだか知ってる?知らないの?だめだよ、サラリーマンが知らなきゃ。あれはさ、ソルトからきてるの。塩だよ。古代ローマ人が給料の代わりにもらったのが塩で、それが給料のサラリーの語源になったんだ。ためになっただろう。こういうくだらないことも役に立つことがあるから、ちゃんと覚えておくんだよ」

たぶん小林さんは一生忘れないと思います。

それから、鳥居さんが30回ぐらいは聞いているという「ナイキ」の話。これもよく開く引き出しでした。

「運動靴だってのにさ、やたら高いんだよ。知ってる?ナイキ。君たち、あのナイキって何のことか知ってるかい?」

小林さんも鳥居さんも「さあ」という顔で首を傾げます。そのとき「あ、知ってます。ニケというギリシャ神話の女神ですよね」と恐れを知らない若い制作進行が答えてしまいました。一瞬の沈黙。その場の寒い雰囲気と「さあ、仕事しますか」と言った、のり平さんの不機嫌そうな声。これは、その場にいた誰もが一生忘れられないでしょう。

※本インタビューは、2004年3月16日に収録したものです。